1.アトピー性皮膚炎と栄養素の関係

1)アトピー性皮膚炎の特徴
2)粘膜と皮膚の不調
3)消化不十分の蛋白質が抗原となりやすい
4)免疫の不調
5)マクロファージの活性化
6)プロスタグランジンE2を減らす
7)プロスタグランジンE3を増やす
8)砂糖を摂りすぎない
9)副腎を強くしましょう
10)ヒスタミンを減らしましょう


2.アトピー性皮膚炎と免疫応答の図表
アトピー性皮膚炎と栄養素の関係
  1. アトピー性皮膚炎の特徴
    アトピー性皮膚炎(AD)は、痒みの強い慢性の湿疹で、遺伝的な起こりやすさ、皮膚上皮と消化管粘膜のバリアーの変化、種々な抗原に対する免疫の不調があると言われます. ADの8割は血中IgE値が高いとの報告がみられます.
    免疫の働きには、細胞性免疫(Th1)と体液性免疫(Th2)の2つの流れがあって、ADではTh2に傾いて、IgEをつくりやすくなっていると言われます. また、胃酸分泌の低下した子供が多い、カンジダ菌陽性の子供が多いなどと報告されています.

  2. 粘膜と皮膚の不調
    消化管と皮膚の細胞は生まれ変わりが速く、粘膜は数日で、薄い皮膚は1ヶ月で生まれ変わると言われ、細胞を生産するために必要なビタミンやミネラルの不足の影響が現れやすい組織と言えます.
  3. 消化不十分の蛋白質が抗原となりやすい
    胃酸が不足すると、食べた蛋白質の消化が不十分で、ペプチド(蛋白質の断片)が、腸管を通過して、抗原として作用し、アレルギー症状を増悪させるかもしれません、カンジダ菌が増えると腸管に傷を与えて、ペプチドの通過を容易にするかもしれません.
    消化管の過敏性は腸内細菌と関係があり、乳酸菌を1ヶ月摂ると過敏性が調整されるとの報告があります. 消化管に必要な栄養素はビタミンA、ビタミンC、葉酸、パントテン酸、亜鉛,グルタミン酸だ とされ、これは皮膚上皮の再構築にも大切な栄養素と思われます.

  4. 免疫の不調(Th1Th2バランス)
    わかりきったことですが、アレルギーは抗原があって、ひき起こされるものですから アレルギーを起こす抗原を如何に排除するかが、基本的に大切と思われます.
    アトピー体質は、IgE(免疫抗体E)をつくりやすい体質と言われます. 1986年モスマンが、免疫系に働く中心的なヘルパーT細胞には、Ⅰ型ヘルパーT細胞(Th1)とⅡ型ヘルパーT細胞(Th2)の2つのタイプがあると初めて報告しました. 2つの流れは、侵入微生物を的確に処理するためにあるようです.
    ウイルスや或種細菌の侵入に対しては、ウイルスに感染した細胞は殺して、ウイルスの増殖を防ぐ、貪食細胞の体内で、もし飲み込んだ細菌が生き残っているようであれば、貪食細胞の殺菌力を高めて細菌を殺す力を与える、などの働きはTh1細胞が誘導します.

    一方、血液中やリンパ液中で増殖しようとする微生物に対しては、これに適合する抗体(特殊な蛋白質)を作って、抗体の結合によって、活性を失わせたり、殺したり、貪食細胞に捕まえやすくしたりするのが巧いやりかたで、これはTh2細胞によって誘導されます. IgEは本来侵入寄生虫を捕らえるための抗体だと考えられています.

    ヘルパーT細胞が、2つに分かれるには信号が必要で、インターロイキン12(IL-12)というサイトカイン(細胞間の信号蛋白質)を受けた未分化のヘルパーT細胞はTh1に、IL-4を受けた未分化T細胞は、Th2に誘導されます、また、Th1細胞が出すインタフェロン-ガンマー(IFN-γ)は、Th2の働きと分化を妨げ、Th2が出すIL-4、IL-10はTh1の働きと分化を妨げ、促進と抑制の二重の制御を受けているようです.
    IgEを生産する作業をTh2細胞が誘導するのですから、Th2からTh1へスイッチを切り替えればIgEが減ることになります、例えば、IL-12やIFN-γのサイトカインを増やせば、IgEを減らし、アトピー性皮膚炎の症状が緩和する可能性が高いことになります.
    また、抗酸化栄養素の摂取が、Th1へ誘導するという報告もあります.
    詳しくはヘルパーT1とヘルパーT2のバランス、及びTh1を高めTh2を抑える図表 をご覧ください

    マクロファージ(貪食細胞)が出す主なサイトカインは、IL-1、IL-6、IL-12、TNF-αなどです.
    マクロファージを活性化することは、有効かも知れません.
    ナチュラルキラー細胞(NK細胞)はIL-12を受け活性化し、IFN-γを分泌するので、この細胞を活性化すつことも、IgEを減らすのに有効のように思われます.免疫研究最前線からの成果を期待しましょう.

  5. マクロファージの活性化
    ADでは、マクロファージ及び好中球の活性が低下していると報告されています.
    マクロファージとB細胞には、侵入異物の情報をT細胞に提供して、Th1、Th2を誘導するスタートとなる働きがあります、もしマクロファージの働きが落ち、B細胞の働きが 優位であれば、IgEをつくりやすい環境であると言えるかもしれません.

    また、マクロファージ系の細胞で、皮膚の上皮細胞の間に定住するランゲルハンス細胞は、皮膚の免疫と修復の中心的役割を担っているため、その活性が皮膚の健康維持に大切です. マクロファージの活性には抗酸化栄養素が大切です.

    ベータ-1,3-D-グルカンと言う成分がマクロファージを活性化するという報告があります.
    ベータグルカンが、マクロファージに結合すると、その活動(移動能、貪食能)が高まり3日でピークに達し、6日後に元に戻ると言われます.
    ベータグルカンを多く含む食品としては茸類があります、例えば食品店で”まいたけ”を求め、30g(1/3パック)程度を週に2回摂ると、マクロファージの活性が適度に保たれると考えられます.

  6. プロスタグランジンE2を減らす
    細胞が分泌するホルモン様物質にプロスタグランジンE2(PGE2)があります.
    PGE2が、Th1細胞の増殖やIFN-γの生産を妨げると報告されています、また、炎症や痛みにたいして増幅する作用があるとも報告されています. このPGE2の産生を抑えれば、ADの症状が軽減するかも知れません.
    PGE2は、細胞膜を構成するリノール酸の酸化反応によってつくられます、この酸化反応はビタミンEなどの抗酸化物質(酸化を防ぐ成分でビタミンE、C、ベータカロチン、また亜鉛やセレンを含む還元酵素が知られている)による還元反応が抑制すると報告されています.抗酸化栄養素がADに有効に働く可能性があります.

  7. プロスタグランジンE3を増やす
    PGE2は作用の強力な物質ですが、類似のPGE3は作用が穏やかです.入れ換えれば、ADやアレルギー症状が緩和すると考えられています. 体内の細胞を包む膜の成分としてリン脂質があります、食べた油脂からつくられます.
    PGE2の原料であるリノール酸を、アルファーリノレン酸系に替えるとPGE3が生産されます.言い換えますと、食事中のリノール酸を減らし、アルファーリノレン酸を増やします.
    大豆油、コーン油、ゴマ油など、従来使われてきた植物油はリノール酸をたくさん含んでいます.一方、アルファーリノレン酸は、植物では亜麻仁油、えごま油、しそ油に多く含まれ、魚の脂も同類ですから、鰯やさんま、鮪など脂の多い魚を摂ればよいことになります.

  8. 砂糖を摂りすぎない
    ADの方は、砂糖と脂肪を摂りすぎている人が多いとの指摘があります. 砂糖の過剰摂取は、マクロファージや好中球の働きを低下させると報告されています. また、腸内でカンジダ菌を増やしやすい環境をつくるとも言われます.

    アレルギー体質は、空腹時の血糖低下に関連性が高いと言われます.低すぎる血糖を、正常に保つために、ホルモンが働き、糖の新生が起こる必要があります.
    血糖を高めるホルモンは、副腎ホルモンのコーチゾルやアドレナリンですが、これらの働きが弱い、また、糖の新生には2つの経路があり、1つは貯蔵グリコーゲンを分解してグルコースとする、これに必要な酵素がホスホリラーゼですが、砂糖を過剰摂取すると、代謝産物のフラクトース-1-燐酸がたまり、この酵素の働きを妨げるのではないかとかされています.
    いま1つは、ピルビン酸とオギザロ酢酸からホスホエノールピルビン酸が合成される経路ですが、 これにはビタミンB群のビオチンが必要で、これが不足している疑いもあります.

    マクロファージと好中球は細菌を殺すのに活性酸素を使います、この活性酸素は、糖分解の過程でできる NADPHで酸素を還元してつくります、血糖低下状態では殺菌作用が弱まります.
    また、活性酸素で自分が傷害されないように、十分な抗酸化栄養素が必要です.

  9. 副腎を強くしましょう
    私たちはストレスを受けると、副腎から皮質ホルモンを分泌して、ストレスを緩和する働きをしています.副腎皮質ホルモンが十分に分泌されないと、アレルギーは非常にひどくなると言われています.
    副腎皮質ホルモンの生産には、ビタミンB群、特にパントテン酸、ビタミンB2、コリン、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンA、必須脂肪酸が必要です、食品ではレバー、緑葉野菜がお勧めです.

  10. ヒスタミンを減らしましょう
    炎症の原因の1つがヒスタミンです.ヒスタミンは食品にも含まれますし、腸管内でアミノ酸の ヒスチジンが細菌の作用でヒスタミンに変わると言われます.肝臓ではヒスタミン分解酵素がつくられますから、肝臓の健康が大切です.アレルギーの方は血中ヒスタミン値が高く、ビタミンC値が 低いと言われます、十分なビタミンCを摂ると血中ヒスタミン値が低下すると報告されています.

アトピー性皮膚炎と免疫応答の図表
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